ラポナイトのジャミング転移
いわゆる複雑流体における無秩序な非エルゴート状態には,コロイドガラスとゲルという二つの状態が存在することが知られている.前者の非エルゴート性が,ケージング効果に起因するのに対し,後者のそれは,パーコレートしたネットワーク構造に起因する.このような非エルゴート性の起源のはっきりとした相違にもかかわらず,この二つの状態を見分けることは一般には困難なことが多い.これらの系のエルゴート・非エルゴート転移は,それぞれガラス化,ゲル化として知られ,その時間変化 (エイジング) の過程はしばしば同じフレームワークの中で議論されている.我々は,このガラス化とゲル化という二つの現象の本質的な違いに着目して,そのエイジングの動力学,若返り現象について研究を行なってきた.対象としたのは,Laponite と呼ばれる粘土粒子で,直径 30 nm,厚み 1 nm のディスク状のナノ粒子で表面は pH 10 の環境では負に帯電しており,無塩系では,相互作用は長距離斥力となる.この系は,1 % 程度の低濃度の水溶液でも透明なゲル状の状態を形成することが知られている.この状態は,多くの場合ゲルと呼ばれてきたが,我々は低イオン強度の場合,コロイドガラスと呼ぶべきであるという結論に達した.その根拠は以下のとおりである.まず,低イオン強度では,イオン強度Iの減少とともに,ガラス形成の閾値濃度が低濃度側にシフトする,また,このような状態の光散乱強度には波数依存性がなく,これは,ゲル特有のフラクタル構造が存在しないことを示唆している.この結果,我々は,この系は,I > 10^(-4) m ではゲルを,I < 10^(-4) m ではガラスを形成するという結論に達した.このガラス状態は,クーロン斥力により安定化されているので,Wigner glass と名づけた.Wigner glass 特有のエイジング・流動による若返りについて研究を行なっている.
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